これまで筋の通ったストーリーが大切であることを記してきました。人の協力を得る・説得する、ためには論理が必要だからです。当たって砕けろ、何とかなるさ、は趣味の世界ではこれで良いかもしれませんが、ビジネスや試験のような勝ち負けがはっきりしている領域では、絶対ではなくても、それなりの確信がなければ、私たちに他の人は協力してくれません。商品・サービスにお金を払ってくれません。効率的な試験勉強もできません。
今回は、ストーリーをどう表現するか、その例をいくつか示してみます。
レポート形式
最も客観的なレポートは査読付き論文ですが、論文というほど堅いものではなく、“報連相”もこの手法が使えると思います。
論文の形は、“はじめに(Introduction)”から始まります。。“はじめに”では、この報告を行う背景(現状認識・AsIs)と目的・課題(ToBe)を示します。次に、”材料と方法“の章で、目的を達成するために、解決しなければならないコト・モノを適切な材料、実験・調査方法等を示します。3番目の”結果“の章で、その実験なり、調査なりの結果を述べ、最後の”結論と考察“の章では、結論からどのようなことが言えるか、それは目的を達成したのか、不十分な要素があるなら、今後はどのような取り組みが必要か等、将来に繋げる議論を進めていきます。この議論の進め方は、後戻りがなく、最初から最後まで筋が一貫して通っています。こういう論理は、とても分かりやすいので、腑に落ちやすい。
レポート形式で表現されたストーリーを図示してみます。それぞれの項目に後戻りのないこと(矢印の通りに論理が進む)、結果は方法に対して得られた事実のみを記述すること。その結果から得られた結論は目的・目標を達成していないといけない。良くあるのは、実験したり、調査したりすることを目的として、何等かの実験なり、調査なりした結果を方法に述べ、結果に結論を述べる。そして、結論に結果から得られたこととはほぼ無関係な持論を展開する。これでは、何のために実験なり、調査なり作業をして、そこからようやく得られことは自己満足にしか使えず、組織の共有財産にならない、というもの。こういう人はとても頑張っているんですが、残念ながら、有効な成果とはなりづらい、です。指示する人は、何を知りたいのか、目的・目標をきちんと伝えることが必須です。方法や結果は、実務をやる人に任せた方が良いくらいです。
DMAICの型を使ってストーリーを表現してみると…
また別なストーリー表現方法として、DMAICというものを紹介します。DMAICはかつてGEが推進していたバラツキを抑えるプロセス改善の手法“シックスシグマ”とトヨタ生産方式から生まれた“リーン生産方式”の一体?良いとこ取り?でできた経営改善手法の共通言語として産まれました(かなり大雑把です)。その手法・ツールがDMAICであり、今ではISOという国際規格にもなっています(ISO 13053シリーズ)。品質管理システムであるISO 9001や環境マネジメントシステムに関するISO 14001はお聞きになった方も多いと思います。ここでは、DMAICという思考の流れについてみてみます
DMAICは、Define-Measure-Analyze-Improve-Controlのそれぞれの単語の頭文字を取ったものです。出発点はAsIsとToBe。それをBig YとしてToBeでのYが目標となります。ToBe-AsIsがGapでこのGapをyとしてyが最適値となるようなyと一対一関係にある制御変数Xを見つけます。Xは複数ある場合が多いです。
y=(X1, X2, X3・・・の関数)+A(定数)
という式が成り立ちます。DMAICに限りませんが、Aは普通、制御できないUncontrollableなもので、Politicsなものから、環境、経済情勢(為替ふくむ)、法令等自分たちではどうしようもないものでここを変えようとしてはいけない。あくまでも変数X1、X2、X3・・・を変えてyを最適化する必要があります。DMAICの流れは以下の図のようになります。
こうしてみるとDMAICもレポート形式も良く似ていますね。不変なのは、現状と目標およびそのGapをきちんと定義して、適切な方法を取って数字を用いて議論し、表現すること。多くの方の賛同が得られやすいLogicになっていることが示されています
Sai10は、ストーリーを作って、実行してみる、ことが如何に大切かを何回かに渡って示してきました。ところが、近年は、これまで人が判断していたことをAIに判断させることが増えてきています。AIによる判断は、そのスピード、精度の面で、人より優れている場面が多いです。コマーシャルではないですが、私たちは、“だって、人間だもの”ですから、ケアレスミスはすることもあるし、疲れていれば普段よりスピードが落ちた判断・行動をすることもあります。このようにAIはある問題の答えを人より早く出せますが、その判断を下した理由は説明できません。ところが、ある種の問題では、正解を出す結果より、その結果を出した過程が重要なプロセスがあります。ドクターXという番組では、フリーランス外科医の大門未知子とAIを使った診断と手術方法を得意としている次世代インテリジェンス手術担当外科部長 潮一摩とのやり取りがあります。番組では、ヒロインの大門未知子の診断・治療方針が、問診もせず、AIを信仰する潮一摩の診断を誤診と結論づけ、大門未知子の診断に基づき患者は治癒した、というストーリーです。最後に大門未知子は潮一摩に“自分の頭で考えなさい”と諭すシーンがありました。現在では治療方針は、患者の理解の元で行われるのですが、AIに治療法だけ示されて患者は納得できるか、疑問が残りますよね。やはり、どういう病気であり、そこからどんな治療法が適しているか、リスクはどのようなものがあるかが判らないと人は納得できないものと思います。 まだまだ、ストーリーは大切です!
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