社員の働きがいを向上させるアンケートの作り方

人的資本経営

 最近、“人的資本経営”という言葉が流行りです。23年1月の内閣府令により“人的資本”に関する情報を“有価証券報告書”に記載し、利害関係者への公開が義務付けられました。(https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230131/20230131.html)
これは有価証券報告書への記載義務なので、上場企業に当てはまることですが、“人的経営資本”はこれまでの“人的資源”の代替え?として概念を持って、上場企業のみならず、多くの企業体が重要視していることから、“流行っている”のではないでしょうか。

 実際、今年度の日経ビジネス7月15日号の特集は“休めニッポン 疲れた会社は稼げない”では、様々な大手会社の関係者の方々が取組みについて解説していました。この号はこの特集の他にも三井物産の人材戦略についての社長コメントやPEC協会会長の人作りのお話など人に関する記事が多かったと思います。はやり、“流行っている”と感じます。

 そこで、今回はSai10なりに社員の働きがいをどう診ていく・観ていく・見ていき、改善(カイゼン)なり、働き方改革につなげていくかを提案したいと思います。まず、改善とか改革という現状から何かを変えるなら現状(AsIs)がどうなっているか、をできるだけ把握する必要があります。その上で改善、改革に相当する(ToBe)を設定するとなります。現状をどのような視点で調査するかは、先ほどの内閣府が示している“人的資本可視化指針(https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf )”の開示事項(7分野19項目)を少し参考にしてみます。

働きがい調査の目的

 もちろん、目的は企業・組織に属している社員がどのような思いで今いるか、それはその企業・組織が求めることと合致しているか、という視点について現状(AsIs)を把握することです。その結果から、どの項目から改善・改革になる(ToBe)にできるだけ早く近づくか、その優先度を決定し、企業・組織の理念やビジョン、あるいは適切な計数を実現するために社員に活躍していただくことです。したがって、当然、内閣府の7分野19項目とは別の視点も存在します。

対象者となる社員を分類

 対象者となる社員は、その企業に属する人数にも依りますが、年齢、組織・職種、役職くらいで分類できると世代間、役職間の差異も判りとても良いかとは思います。それには感覚的50人以上から回答を得られないと、個人の意見が重くなり、組織の意見とはなりづらくなります。
 基本的に無記名回答を得ようと努力します。しかし、上記のように年齢とか役職、職種によっては個人が特定されてしまうかもしれません。なるべくそうならないように、カテゴリーを大きくとることに留意します。
 たとえば、年齢なら実年齢ではなく、35歳以下、50歳以下、それ以上の3種、
      職種は、部単位。本社、工場など働く地域で 
分類しても良いと思います。
 要は、改善・改革活動にどのような対象から始めるか、です。決して、特定個人の炙り出しに使うものではなく、相応の工夫が要ります。対象人数の関係上、どうしても対面でやらないと行けなないなら、アンケート取得者の意識が反映されないように留意します。

回答の作り方とその評価

 質問は基本的にYes(思う)/No(思わない) Questionになるので、回答は、Yes/Noですが、YesとNoの間に2段階(Likely yes(どちらかと言えばそう思う)とLikely No(どちらかといえばそう思わない)の4段階か、Neither(どちらともいえない)を加えた5段階にします。これは、評価としてDI値(Diffusion Index)を活用したいからです。

DI値=“満足(肯定的回答割合)-不満(否定的回答割合)”
  =(“思う”+“どちらかといえば思う”)-(“どちらかと言えば思わない”+“思わない”)

で算出され、DI値が大きいか小さいか、プラスかマイナスか、で判断していきます。
次に実施するアンケートの項目について述べていきます

アンケート内容

風土

 社員がその組織・会社をどう診ているか、は経営者として知りたいこと。経営者と社員が同じ方向を向いて欲しいし、会社の戦略に同意を持ってもらいたいと思っていると思っています。会社を続けたい・辞めたい、は最終質問の“満足度”にも繋がります

マネジメント

 組織の上下関係についての確認です。指示系統、昇進昇格、公平性や組織としての目標があるかがポイントとなります。昇進昇格の項目は、内閣府19項目の⑯賃金の公平性、という項目に相当します

コミュニケーション

 上下関係では2と同様の質問となります。公平性や信頼性など同様な質問となります。当然、DI値も同じになるはずです。もし大きく違ったら、要チェックです。
 この項目では同じ職場でのコミュニケーションや他部門とのコミュニケーションについても質問も含めます。

モチベーション

 業務を遂行するエネルギー源が何かということです。上司や同僚など人に関する部分。教育受講、自己評価の部分もあります。自己評価は多くはPositiveです(質問内容としては、あなたは成長していますか?チャレンジしていますか?変化に対応できていますか?等の質問には一般的に高いDI値が出てきます。

労働環境・福利厚生

 休暇、労働時間・残業、労働安全に関し、これも内閣府の示す19項目では分野5 健康・安全、分野6 労働慣行 の多くに関するものです。

エンゲージメント

 仕事での活躍と活力が正の関係を強く有しているか、仕事・業務への誇りや忠誠心も本項目に関係します。これは19項目中④従業員エンゲージメント に相当します。ここでは、企業理念に共感して自発的に会社へ貢献しようとする意欲 を意味するので、Negativeに答えづらい内容となりやすいです。4のモチベーションと正相関が出やすい分野なので、そうでない場合は対応が必要と思います。モチベーションがあるのにエンゲージメントが低い場合は、会社・組織やその仕組みに不満があったり、他責感があったりする場面が想定されます

労働条件

 19項目の分野6とその中の⑯賃金の公正性、⑰福利厚生が該当しますが、そのほか、給与、再度職場の雰囲気、地位も確認しても良いと思います。

有能感

 社員自身で、仕事ができるか、解決できるか、自分で見通しが立てられるか、というような社員の能力(もちろん、社員自身の評価)を測るものです。内閣府の示す19項目の③スキル/経験 に関する分野です。総じて、全ての質問の中でDI値が最も高くでやすいです。

満足度

 単純に満足ですか、という質問とせず、仕事内容、職場、会社、と3分野に分かれて質問すると同じ結果にならないことが多いです。会社には満足しているけど、職場や仕事内容は不満、とかその逆とか。。。当然、満足度は上記のこれまでの質問に相応に関連があります。また、経営者が最も重要にすべき、回答です。

 重要なのは、各項目のDI値の高い/低いだけではなく、昨年と比べて、どうだったか、上がったのか、下がったのか。下がった部分の原因はなんだろうか。。。など、次への行動指針に繋げていけばアンケートに参加していただいている社員のモチベーションもエンゲージメントも高まり、結果として満足感の高揚に繋がっていきます。
 人が成長するから事業が成長するのか。事業が成長するから人が成長するのか、鶏と卵の関係ですので、どちらが正しいとは言い切れない部分もあるかと思います。事業はその時々の地政学的背景や顧客の行動など全部がコントロールできない部分はあるかと思います。しかし、人の成長は、それぞれがどう成長するか、なのでこれはコントロールできるものとSai10は考えます。技術者としては、“これまで解らなかったこと、できなかったことが、解るようになる、できるようになること”が成長と考えてます。“人的資本経営は、私たちのためにできた概念です”、といったら言い過ぎかもしれませんが、これを機会に活用していけば良いと思います。これは何も管理職の男女比をいくつにする、とか健康診断受診率向上だけでは測定できないものでもありますので。

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